「消えとくれないかい?」
何度も聞かされたその台詞な筈なのに、今回のはやけに重く心にのしかかった。
「士元…?何かあったのですか?」
「…いい加減うんざりなんだ。まとわりついてきては胡散臭い事ばかり言って。」
俯いたまま吐き捨てるように言葉を連ねるホウ統に諸葛亮はただ呆然とするしかなく、差し出そうとした手は何者も触れることなく空を掴んだままだ。
「距離を置こうとしてもお前さんはしつこくあっしについてくるし、あしらおうものなら拗ねたり、力ずくに進めようとしたり、」
「あの、待ってください。士元、あなたは一体何の話を…」
言葉を挟もうとしてもホウ統は許さず、諸葛亮を見ることもないままつらつらと話を続ける。
「何度も何度も気味の悪い言葉を聞かされ、ひっつかれて、押されて、もう、ほんと、お前さんはあっしになにを求めているんだい?からかってんのかい?」
そこまで聞いて諸葛亮は小さく揺れる肩に気付き、彼が自分の何に対して怒っているのかわかった。
「頼むから、その気じゃないのにあっしに構わないどくれ。お前さんの言葉や行動に振り回されるのは疲れたんだ。」
「士元。」
呼びかけるとほぼ同時に諸葛亮はホウ統を抱きしめた。
「あなたが何故、そんな事を考えたのかはわかりませんがこれだけは言わせて下さい。
私は、気まぐれで『愛してる』と言うほど薄情な人間ではありません。」
「(分かってる。分かっているんだ)」
苦しいくらい抱きしめられて諸葛亮がどんな顔をしているのかはホウ統には分からなかったが、抱きしめる腕の力強さに恐らく怒りと悲しみを混ぜたような顔をしてるんだろうな、と推測した。
「(お前さんの想いが本当だって、分かっているんだ。)」
でもそれを認めてはいけない。
今まで孤独に生きてきたホウ統にとってそれにすがる事は愚かで無謀な行為だったのだ。
「(きっとこいつにすがったら、あっしはとんでもなく弱くなる。)」
頭では分かっていてもその腕を振りほどこうとしないのは同情なのか、それとも別の感情なのか。
ただハッキリしていることは彼の温もりがひどく心地よいことだけ。
「…やっぱり、お前さんは消えてくれた方がいい。」
温かな腕の中で呟いたホウ統はその温もりに身を任せるように瞳を閉じた。
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1人の時に比べて、大事な何かがある時は感情が豊かになる気がします。
周りに何を言われても気にしないでいたホウ統は諸葛亮という存在が大きくなることで、自分の心が弱くなる事を恐れてたらいい。
まぁそう思う時点でやつの存在がかなり大きくなってるのですがね。笑