恋人が俺を頼って泣き付いてくるのは、まあいい。
頼りにされて悪い気はしねぇし、弱い部分を見せられる相手として俺を選んでくれてるのは嬉しい限りだ。
ただその泣き付いてくる理由にはどうにも納得がいかないだけで。
「俺も駆も練習のない日ができたら二人で遊びにいこうって話してたから、色々考えてたんスよ」
「……はぁ、」
「なのに昨日になって「ごめん、祐介と出かけるって約束しちゃった」ですよ?」
今朝になっていきなり今日空いてますか、と連絡してきたひとつ下の恋人はいきなり泣き言から話題を始めた。
要約すると楽しみにしていた弟との約束をドタキャンされた、ということらしい。
ピッチの上では動揺することも滅多にない逢沢傑のこんな姿を見ることが出来るのは中々に貴重な気もするが内心は酷く複雑だ。
というのも、俺もコイツも空いてる日もまた数少ないのにそういう日を見計らって誘っても大概は弟を理由に断られるからである。
そもそも今日だって本来はようやく約束を取り付けたが「やっぱりナシにしてください」と断られていたのだ。
なのに当日の朝に会えないかと言われれば、こうして他の予定を蹴ってしまうのだから、なんだかやりきれない。
「この、ブラコンめ」
「え、なにか言いました?」
「……なんでもねーよ」
うっかり、いつも心で呟いていた言葉を口にしてしまった。
傑が異常なまでに弟思いという事は(綺麗に言ってやると、だ)それなりに親しい人間の中ではそこそこ知れ渡った事実だ。
最初こそ驚いたが、あまりにも揺るぎないその姿勢はこちらが折れる方が簡単だった。
そしてそれを知っていて尚、こうして付き合ってるのだから我ながらどうしようもない。
「それで、今日は弟とどこに行くつもりだったんだ?」
「駆が雑誌見ながら欲しいなって言ってたヤツが売ってる店に行って、その近くで駆の好きな料理の専門店があって評判もいいみたいだからそこで……」
自分から振っておいてなんだが、真面目に聞くのも馬鹿らしくなってくるが、それでも適度な相鎚は怠れない。
いや、多分、自分の立てたプランを話すに夢中な傑は相鎚の有無にさえきっと気付いていない。
一通り語らせた後は気晴らしにサッカー、と以前と同じ展開が脳裏に浮かんだ。
これじゃあ練習のある日と変わらないが、まあいいかとそっとため息をついた。