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まるで聖女の扱い(ギャリイヴ)


恋人の定義とはなんだろうか。なんてここで論じるつもりは欠片も無いけれど、私が決死の覚悟で告白をしてからもう一年経つ筈なのに二人の関係が変わったかと言われると首を傾げる。
彼は驚いて、曖昧に笑った。歳上だから、守ってくれたから。そんな淡い憧れを恋心だと勘違いしているのだ。と言外に言われた気がした。ギャリーは何も言わなかった。告白の答えは貰えなかったのだ。
いつものように二人並んで歩く。二人のお気に入りの店を回って、雑貨や洋服を見て回る。ふとガラスに写る二人の姿は昔の様にちぐはぐなんかじゃなくて、カップルに見えなくも無いのに。彼は相変わらず私を子供扱いして、私の決死の思いは何処かに流されてしまった。受け止めて貰えなかった思いは断ち切る事も再び奮起する事も出来ず、私はこの一年ふわふわと浮かぶ雲のような心地で生きてきた。
何も言わないのを良い事に恋人になれた!と強引に納得出来れば良かったのだろうか。こうして定期的に会い、買い物をして笑い合う事は恋人のような気もする。
明確な答えがないから、わからない。私は振られたのか、恋人になれたのか。
「あら、これイヴに似てるわね」
ふと、ギャリーが指差した絵。穏やかに微笑むマリア様。ああ、そうか。私は漸く気がついた。だから、ギャリーは動かない。私はギャリーと同じところにいないから。
すとんと納得出来た。
彼が私の事を大切に扱って居るのは知っていた。歳が離れているし、女という性別も彼にとっては守る対象だ。そしてあの美術館での体験で私は彼の中で絶対的に守らなければならないものになってしまっている。それが何年も積み上げられた結果、私はいつの間にか触れてはいけない聖女にまで発展していたらしい。聖女に告白された人の心のうちを考えた事はないけど、きっと笑うしかなかったんだろう。だって、触れてはいけないものが逆に近寄ってきたんだから。
「ギャリー…」
「あら、なぁに?」
「私人間だよ。もう大きくなって子供でもないし、恋をしてるただのイヴだよ」
ギャリーが目を丸くした。本当に、本当に私が人間だって事を忘れてたみたいな顔だった。じわじわと私の言葉が染み渡って、「そ、うよね…」としどろもどろにギャリーが視線を彷徨わせる。
私が恋を成就出来なかった理由が、【触れてはいけない聖女のイヴ】にあるのだとしたら、私は私を殴りたい。
けど、人間のイヴになれたなら、もう一度チャンスはあるだろうか。今度こそ思いは受け止めて貰えるだろうか。
「ギャリー聞いて」
一年振りの決意。今度こそ、と私は息を吸い込んだ。









それが家族です(ゲルテナ一家パロ)

面倒だった筈なんだ。するりと零れ落ちた言葉。普段寡黙な彼が酒の力でほんの少しだけ、饒舌になった。
娘の友人の父親。変わり者と呼ばれているけれど、私から見ればただのお父さんだった。息子を思いやり娘を大切にしているお父さん。そんな彼と何故かこうして酒を飲む機会が何度かあった。
気まぐれに、けれど定期的に。飲み友達と呼べるかどうか怪しいふわふわとした関係。けれどもそれがお互いに心地よかったから、こうして今日も飲んでいる。
「息子をずっと放っていた。何年も抱いてやった事すらなかった」
私は相槌を打たなかった。ふわりふわりとした告白はつつくとシャボン玉みたいにすぐ消えてしまう事を今までの経験で知っていたから。
「娘が玄関に捨てられて、抱いて、温かかった」
珍しく口の端が上がった。笑っている。
「ずっと、面倒だったのに何年も育ててきた」
変わり者の彼は気付いてないけど、私は思う。やっぱり彼はただのお父さんだ。



※イヴパパ視点でした。

痛みの中で(ギャリイヴ)

ずきり。ずきり。と痛む体。呼吸がうまく出来ない。目が霞んでアンタの顔も本当は良く見えてないの。ゴメンね。
アタシはこの痛みを知っている。命を引き裂かれる痛み。またこの痛みに苛まれる事になるなんて。ヘマをして痛みに1人呻いてたあの時、アンタが差し出してくれた青い薔薇。
ああ、本当にゴメンね。アンタが折角掬い上げてくれた大切な薔薇だったのに。アタシったらまた手放しちゃうだなんて。
でもね、アタシのなんかよりもっともっと綺麗なあの赤い薔薇が、好きで。守りたくて。散らせたくなかったの。だから後悔なんてしてないわ。お願い、そんな顔しないで。
上手に笑ったつもりなのに、アンタってば変に賢い子だから、きっと全部バレてるんでしょうね。さあ、行って。振り返らないで。散った薔薇には見ないふりをして。
ああ、もう、意識が。












「おやすみなさい、ギャリー」

涙を堪えたその声を、彼は知らない。

妖怪パロで煙管のお話(ギャリ偽ャリ)



※ギャリーが鬼で偽ャリーが妖狐なお話


ゆら、と揺れる煙。派手ではないが繊細な細工を施されたそれを加える唇が、妙に艶っぽく見えてそっと手を伸ばした。
ふ、と煙を吹きかけられぱちりと瞬く。

「何よ」
「それ、俺もやりたい」

それ、と指差されたものをギャリーは見つめる。今自分が持っている煙管。
最近家に転がり込んできた騒がしい狐は人の形を取ってからの世界が随分と新鮮らしく色々なものに興味を示す。
その好奇心が原因で随分と面倒を被ったのだが、学習する気はないようだ。

「ねぇ、試したい!!俺もやる!!」

こうなれば狐はやるまで聞かない。ダメだと言えば拗ねて暴れる上にあとでこっそりと手を伸ばす。
それで茶碗を壊され着物を破られ障子には穴が空いた。火を扱う煙管を使い方を知らぬままに使われれば後でどうなるか、想像するだに恐ろしい。
ギャリーは深く溜息を吐き、吸いかけだったそれを差し出した。

「壊すんじゃないわよ。あと、一気に吸い込んでもダメだからね」

その忠告はどうやら既に煙管に意識を注いでいた狐には届かなかったようだ。
気がつけば思い切り吸い込み、そして盛大にむせた。目に涙を浮かべてげほげほと何度も咳き込む相手から煙管を取り上げて背中をさすってやる。

「げっふ!!ごほ!!!」
「だから言ったじゃないの…」
「ま、ずい…」

良くこんなものを常日頃から吸っているな、と狐はギャリーを見上げる。ゆっくりと味わうように吸えば十分おいしいのだが、どうにも精神的に幼い狐には通じないだろう。
ふと、煙管に口をつける。軽く吸って狐の唇と自分のそれを重ねた。

「んむぅ!?」

驚いて硬直する相手の口内にするりと侵入して、舐めとる。びく、と震える舌を捕らえて吸い上げれば大袈裟なほどにその肩が跳ねた。
先ほどとは違う種類の涙が目じりに浮かんだ頃、ギャリーは口を離す。

「ふ、ぁ…」
「おいしいでしょう?」

ぐったりと静かになった狐に、ギャリーは悪戯っぽく笑った。

妖怪パロ(ギャリ偽ャリ)



※ギャリーが鬼で偽ャリーが妖狐的なあれやそれ





それはほんの気まぐれだった。罠に掛かり、ぐったりと倒れていた狐を見付けた。普段なら何とも思わなかったのに、何故だかその日は可哀想だと妙に良心が騒いでその罠を解いてやった。
あの力無く倒れた狐の瞳が助けて、と叫んでいるように見えたせいだろうか。
鋭い罠に挟まれた足は狐の毛皮を赤く染め上げちらりと見えた肉は酷く痛々しい。
助けた序でに近くに生えていた薬草を揉み込んで貼ってやる。その上から頭に巻いていた手拭いで縛ってやれば少し落ち着いたのか、ゆっくりと体を起こした。

「アタシがアンタみたいなの助けるの珍しいのよ。気まぐれに感謝しなさい」

狐はわかっているのかいないのか、感謝の気持ちを表現するように何度も頬を舐めてくる。

「いいから、もう行きなさい。もう捕まるんじゃないわよ」

言い聞かせるように頭を撫でてやれば、少しぎこちない動きではあったがしっかりとした足取りで歩いて行く。
何度も何度もこちらを伺うように振り返るから、さっさと行けと手で追い払った。

「さて、帰らなきゃ」

手拭いが無くなった頭に触れる。そこには先程まで隠されていた硬く尖った角が生えている。
それ意外の見た目は殆ど人間と変わりないが、人々は鬼だ、と叫び何もしていない自分達を迫害する。
人間よりも力は強い、あらゆる感覚も優れているだろう。しかし鬼から人間に何かをした覚えは無いのに、人間は自分達と違うという理由で鬼を弾き飛ばすのだ。
人間に見つかったとて逃げ切るのは容易い。しかし無意味に怖がらせるのは本意ではないので、さっさと引き上げる事にした。




里に帰る途中、鬼の鋭敏な耳に幼い悲鳴が飛び込んでくる。そっと気配を探れば小さな人間が、自分の同族に囲まれていた。
あまり柄の良くないそいつらは、たまたま迷い込んできた幼い少女に普段迫害されている鬱憤をぶつけようとしていた。
ただでさえ力の強い鬼であるのに、幼い少女が殴られれば一溜まりもないだろう。
一部の野蛮な奴らのせいでこれ以上畏怖の対象になるのは御免だった。

「あーらなんだか楽しそうな事してるじゃなーい」
「誰だ!!」

答えず、1人を蹴り飛ばす。完全に不意をついた一撃は、的確にそいつの意識を刈り取った。
震える少女を背に庇い、動揺の走る連中にもう一撃食らわせる。

「がっ」

強く睨みつける。

「あら、みーんな見覚えのある馬鹿面ねぇ。長に丁寧に報告しておくけど、いいのかしら」

少女に怒りをぶつけようとしていた小心者達は長という強い立場を引き合いに出され、怯んだ。どうしようもない同族の姿に内心の怒りを抑え、一喝する。

「さっさとそいつら連れて里に帰りなさい!里から追い出されたいの?」

気を失った者達を抱え、ばたばたと逃げ出すそいつらの背を見送った後に漸く振り返った。

「…馬鹿どもがごめんなさいね。怖かったでしょう」
「おに…」

しまった、今日は手拭いが無い。だが鬼の里に近い場所に人間を置いておけばまた襲われるかもしれない。

「そう、鬼。あいつらと同じね。でも、アタシは襲わないわ。ちゃんと他の人間がいる場所まで送り届けてあげるから」

襲われた後に信じてくれるだろうか、と不安が過ったが少女は大きな瞳を瞬くと小さく頷いた。

「じゃあ、おいで」

手を広げると小さな体がおずおずと近付いてくる。それを軽々と抱き上げると人里まで駆け出した。

「それにしても鬼の里の近くまでくるなんて、随分と深い場所にきたものねぇ」
「初めて、お使いたのまれて。そしたら迷って…」

ふと、少女の着物を見ると随分と上等な物を着ていた。手を見るとやはり労働をした事のない荒れを知らない手で、人間の中でも随分と上流の家系の生まれなのだろうと伺い知れた。
農民程度なら幾ら幼くとも大事な労力として駆り出される。

「あんた、いいとこの子でしょう。なんで1人でお使いなんてするのよ。付き人とかいないの」
「私が全部要らないって言ったの。そしたら、迷って…」

ぼそぼそと答える少女は顔を俯けてしまう。初めてのお使い、付き人も無しにやり遂げた達成感が欲しかったのだろうか。
ぬくぬくと暮らしていればいいものを、世間を知らぬが故に少女は危険に身を晒したのだ。

「…次から付き人連れてきなさい。またあんた、鬼に襲われるかもしれないし世の中怖いのは鬼だけじゃないのよ」
「お兄さんは、優しいよ」

ぱた、と足が止まる。抱えた少女をまじまじと見つめれば印象的な大きな瞳が見つめ返してきた。

「優しい?アタシが?」
「助けてくれたし、注意もしてくれたから」

微笑む少女に、むず痒くなってまた駆け出した。人間の少女にそんな事を言われるとは思わなかった。恐れられるだけだと思っていたのに。

「私、イヴって言うの。お兄さんは?」
「……ギャリー」
「ギャリー…」

確かめるように呟かれる自身の名に、妙に胸がざわめいた。
漸く人里の近くにやってくると、足を止める。

「これ以上は見つかっちゃうから近付けないわ。イヴ、道わかる?」

こくりと頷く少女を降ろしてやる。

「ありがとう、ギャリー」
「……ええ」

人間に礼を言われる日がくるとは思わなかった。なれない感覚に戸惑う。

「ギャリー、あのね。また、会いたい」
「…アタシは鬼よ?」
「でも、いい鬼だよ」

少女は結っていた髪を解くと色鮮やかな赤い髪紐をギャリーに差し出した。

「また会う、約束。」
「約束…」

少女はギャリーの小指に髪紐を結び、微笑んだ。

「……向こうにある川、知ってる?」
「……?うん」
「新月の日、そこに居るわ。アンタが来るのかは知らないけど…じゃあね」

ぱあ、と表情を輝かせた少女に背を向け、走り出す。
初めて人間に礼を言われた。穏やかに名を呼ばれた。約束をした。
小指に巻かれた色鮮やかな約束の証が酷く輝いて見える。鬼と人間の約束なんて、不思議だった。
既に新月の日を心待ちにしている自分に気が付いて、ギャリーは苦笑した。




朝の静寂はけたたましい音に切り裂かれる。どんどん、と戸を叩く音に飛び起きて不機嫌に髪を掻き回す。

「なんなのよ、もう…」

纏わり付く眠気を引きずりながら戸を開ければ、そこには鏡があった。
否、鏡に映したかのように自分とそっくりな顔があった。
違いがあるとするなら、ふさふさと触り心地の良さそうな耳がそっと乗せられていることだろうか。それ以外はそっくりそのまま、同じだった。


「な…、アタシ…!?」
「やっと見つけた!!命の恩人様!!」

同じに顔に飛びつかれて、ギャリーは硬直する。これは夢だろうか。起きたと思っていたが、自分はまだ眠り続けて奇怪な夢を見ているのかもしれない。
硬直したまま静かに現実逃避をしていると、そいつは漸く体を話してにっこりと笑う。

「名前!!名前は!!」

喧しい声にああ、これは現実かとぼんやり思えばふわふわの耳が嬉しそうにぴこぴこと揺れる。
そういえばこんな毛並みを数日前に見なかったか。記憶を手繰り寄せ、嗅いだ覚えのある獣の臭いにはてと首を傾げた。

「…狐の、臭い」
「そう!!覚えててくれた!!俺、アンタに助けて貰って!!お礼がしたくて、顔、忘れないようにこうし同じになって、やっと見つけたんだ!!」

数日前に、自分は罠に掛かった狐を気まぐれに助けてやった。ぐったりと弱っていたあの狐は今は悪趣味にも自分と同じ顔で、随分と騒がしい。助けた事をほんの少し後悔してギャリーは溜息を吐いた。

「名前、ねぇ、名前教えて!!」
「…ギャリーよ。アンタ、何しにきたの」

鬼の里は人間以外のものになら案外開けている。そうでなくとも自分と同じ顔なら入る事は容易いだろう。
名前を聞いたそれは何がそんなに楽しいのかぴょんぴょんと跳ねて笑った。

「ギャリー!!俺、ギャリーと一緒に居たくて、ここに来たんだ!!」
「はぁ?なんでよ。礼なんて要らないから帰りなさい」
「やだ。俺ここにいる!!一緒にいたい!!」

ふと視線を感じれば家の周りに笑みを浮かべた同族達が居る。生温かい視線に居心地の悪さを覚える。
何か色々とおかしな勘違いをされている気がする。自分に化けた狐の腕を取って家の中に引き込む。
入れて貰えた!!と騒ぐ相手にげんなりしながら戸を閉めた。

「わかった!!わかったから、暫く家に居てもいいわ。その代わり約束しなさい。アタシのものを壊さないこと。騒ぎ過ぎないこと。アタシのいう事をちゃんと聞くこと。これが守れなかったら放り出すわよ」
「わかった!!」

ぴん、とふわふわの耳が立ち上がり自分と同じ顔をした狐は大きく頷いた。よほど嬉しかったのか頬は紅潮して耳と同じくふさふさとした尻尾が大きく揺れていた。

「アンタほかの姿になれないの」
「思いが強くないと無理。俺、ギャリーの姿じゃないと嫌だ」

同じ顔に見つめられ、ギャリーは静かに視線を逸らす。この狐はいつまで居る気なのだろうか。
一人暮らしの我が家にこんなに音があふれる事は珍しい。鬼の宿命もあって誰かと関わりを持つのを無意識に避けていたから、こうしてバタバタと騒がしいのが珍しくもあり、楽しくもあった。

「ギャリー、ギャリー」
「なぁに」

狐は無邪気に笑う。


「これからよろしく!!」

アンタいつまで居座る気よ、と言葉が出かかって飲み込む。苦笑を浮かべ、ギャリーは頷いた。

「はいはい。よろしく」

こうして誰かと関わりを持つのも悪くないかもしれない。目の前の狐と赤い髪紐の約束を思い出し、ギャリーは思う。
無意識に浮かぶ笑みを見て、狐は無邪気に微笑んだ。
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