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情熱ラブコール(十まも/21)

「十文字くんって、彼女のことすごく大切にしそうだよね」


いつも、女どもからは勝手なイメージを持たれてきた。

あまり多く語らなければ、クールだなんだ。

チャラチャラせずダチとだけつるんでりゃ、硬派だなんだ。

アメフトに打ち込んでいれば、スポーツする姿が格好良いだなんだ。

女にぐちぐち言われたくなくて穏便に交わしてりゃ、優しいだの。


校舎裏や階段の踊り場に呼び出されて聞かされる、女どもにとっての俺とやらは大層な男だ。

熱く語っているが、いっそ笑えるほどにソコに俺はいない。

「俺」を呼び出したというのにこのザマでは、初っ端に言われた「好きです」って言葉が今じゃ上滑りしてやがる。

あらかた聞いた後、他を当たってくれと告げる。

そしてギヤーギャー言われて、ウンザリする。


ああ、この人も変わんねーのか。あの女どもと。


「でも十文字くんの彼女って、なかなかなれなさそうね。大切にする分、滅多にそういう人作らなさそう」

「ハァ…そうっスか……」

「信じてないでしょ!私、本当にそう思ってるんだよ」


本当にと言われたところで、あいにくこの俺がそうとは思わない。


だがしかし、さっきは他の奴らとこの人も変わんねーのかと思ったが。

他の奴らとは決定的に違いがある。

まず俺への勝手なイメージってのには変わりないが、単純に他の奴らと違ってこの人とは浅からぬ付き合いがある。


今まで一度だって自らなぜそう思うのか訊いたことはなかったが、今回は気乗りした。

どうせ遅刻の罰則の部室掃除中の俺と、雑務中のマネージャーだ。

それに、この会話の終わらせ方もわからないからついでだ。


「どうしてかって?だって、十文字くんはこんなくだらない私の話も、キチンと最後まで聞いてくれるでしょう。それと聞くだけじゃなくて、それにちゃんと答えてくれる。なかなかできないよ、セナなんて聞き流すのうまいんだから」

だからついつい俺相手にくだらない話をしてしまうのだと、マネージャーは小さく笑った。

いつも悪いな〜と思いつつもね、やっぱり最後まで聞いてくれる十文字くんを見てると話したくなるとさらに言われた。


「ハァ…」


意表を突かれたというか、なんというか。

もっと漠然とした、俺の態度に対する誇大解釈を聞かされるのかと思っていた。

いつも大抵そうだったから。


たしかにこの俺の態度も自覚はないが、他の奴らの語る俺よりは「俺」に近い気がする。

なぜそう思うのか、自分でも謎だが。

「だからね、こんな私の話を最後まで聞いてくれるなら、彼女にならもっと優しいんだろうなって思ったの。でも、十文字くんがアメフトと友達付き合いもちゃんとやってるの見てたら、ちゃんとした人だから安易に彼女を作ったりしないのかもって思って。でも、そんな十文字くんが彼女にする子なら、私はきっと敵わな…!!」


ペラペラと喋っていたマネージャーがピタリと口をつぐみ、次は何でもないの忘れて忘れてと慌てふためいた。

顔を真っ赤にして、えっとえーっとと会話を探してる姿を見てりゃさすがの俺も分かる。




え?嘘だろ?




「マネ‥」
「なんでもないの!気にしないで!!忘れてくれると助かるんだけど、って、あの…もう遅いかな?」


ちょっと笑えた。

必死に頼んできたのに、どうやら自分でも無理な相談だと分かっているらしい。


「俺の勘違いでなけりゃ、もう遅いな」


マネージャーはこれ以上赤くなるとは思えなかった顔を、さらに赤くして目を泳がせた。

どうやら自惚れでもないらしい。


「じゃあ、あんたその″俺の彼女″になって確かめてみるか?あんたの思ってた通りの俺なのか。あいにく俺はそう思っちゃいねーから、酷い目にあうかもしれないぜ」


なんだか、不思議と前向きな言葉が出てきた。

こういった話で「好きだった」と言われなかったのは初めてで、でもその言葉を口に出されていたとしても上滑りしそうもないマネージャー相手だと素直に嬉しいと思えた。


「ううん、きっとそんな目にはあわないよ。だって十文字くんだもん」


この言葉が、なにより当てられた。


さすがに恥ずかしくなって、んじゃ、よろしくとぶっきらぼうに言ったら。

大好きよ十文字くん、だと。




(勘弁してくれ、俺はあんたが思ってるより恥ずかしがりだ)

Put a person in handcuffs.(大和←)

本当に、私はヤマト隊長と結婚なんてものできるのかしら。


夜はすっかり明け切って、朝の早い鳥達はすでに忙しなくピヨピヨ。

ヤマト隊長は、暗部の精鋭らしからぬ深い寝息を立てつつ未だ夢の中。


ねぇ、その中に私はいたりしますか?

ねぇ、その中にもあなたは私を探していたりしますか?


数時間前。

まだ夜の帳が深い垂れ下がっていた、しんと冷たいこの部屋で。

温かなあなたの腕に包まれながら。


『僕と、結婚してくれないか?』


こんなにも長い間、離れていたから。

もう片時も離れていたくなんてなかった。


もちろん、それだけじゃないわ。

本当に大好きで、愛してるから。

嬉しくて嬉しくて、今のことなんて何も考えずに、その言葉に飛び込んだ。


でも、


「本当に、私はあなたの奥さんになれるの?」


この任務、依頼主の奥方様の気が済むまで終了を迎えることはない。

そして、その奥方様はアオト様と私の結婚を望んでいる。


「サクラ?」
「あ、おはようございます」


泣きたくなってヤマト隊長を抱き締めていたら、それが覚醒に繋がったらしい。


そういえば、こんな風に共に朝を迎えるのは初めてだわ。


「ん、よかった…君がココにいて」
「え?」


ほら、出発の日。

僕が目を覚ます前に、出て行ってしまったろうって。

ぎゅうと切なげに抱き締め返されて、きゅっと縮まる心があなたで満たされていく。


「自信も、勇気もなかったんです」
「うん」
「ヤマト隊長の目、見ちゃったら私…」
「うん」
「きっと…きっと、行ってきますなんて言えやしないって」
「僕もそうだよ。行ってらっしゃいだなんて、言えそうにもなかった。引き止めてしまいそうだった。許されないって、わかっているのに」


それでも、隣にサクラがいなくなってるって気づいた時。

本当にショックだったんだって、ヤマト隊長。


「ごめんなさい」


もういいよって、穏やかに微笑むヤマト隊長が。

くしゃくしゃになってる私の髪を、手櫛で梳いてくれた。


「なぁ、サクラ」
「はい?」
「僕は忍だ。そして、もちろん君も。その中で、僕はさらに暗部に属している」


いつの間にか、梳いてくれていた手は止まっていて。

私の髪と頭と、首元を優しげに掴んで。


「任務で、いつこの足を腕を、臓器を、記憶を、失うかわからない」


五体満足でも、寝たきりになることも、植物状態になることだってないとは言えない。


「死よりも厳しい現実の可能性を、僕は君より多く背負ってる」


忍として、生きると決めた時から五体満足の幸せなど砂時計。

零れ落ちていくだけの、明日をも知れないこの五体。


「サクラにだってないとは言えないけど、僕はたとえそうなったとしても君と生きていきたいと思った」


サクラ、君はこの城で重傷を負っただろう。

自分を責めるような目で、ヤマト隊長は私の右足を撫でた。


「でも、サクラ。君は、僕がそうなったとしても傍にいてくれるかい?」




私は、ただただ嬉しくてイエスと答えた。

だけどヤマト隊長は、ここまで考えた上で、それでも「結婚」という言葉を口にしてくれたのだ。


医療忍者として、むしろそうなった忍達の方を多く目にしてきた。

言い尽くせない後悔、嘆き尽くせぬ忍としての絶望。

こんな生き様を晒すくらいならば死をと叫ぶ屈強な戦士達。

その人達に寄り添い、片時も離れなかった伴侶達。


一番の豪傑の、一番可憐な奥さんが。

悲嘆に暮れる夫に、そっと触れて言った。




「私春野サクラは、この男を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫に添うことを、この神聖なる婚姻の契約のもとに誓います」


どんなに絶望しても涙を見せることのなかった旦那さんが、奥さんの膝で泣いていた。

愛していると。




大丈夫、私はちゃんと愛を知っています。


((人に)手錠をかける)

8/17にコメントくださった音羽様へ

サイトの掲示板のみならず、こちらのお返事までもが遅れましては、誠に申し訳ありませんンンン!

幸せな話が書きたいものの、出来上がるものはなぜか物悲しい空気が拭えない…
次こそは…!

書き込みもコメントも、とても嬉しかったです^^
ありがとうございます!

アスターの花束(鹿桜←佐助※現パロ)

※懺悔文※
お久しぶりです、皆々様。
リハビリ駄文として、今回のお話を載せさて頂きました。
いつもはきちんと細かく設定とかも決めてから話に取りかかるんですが、リハビリ中ということもありまして、今回はお話を先に作って、サクラちゃん以外をおおまかにキャラを割り当てた感じです。
年齢とか、ちぐはぐだったりするんですよ。
サスケとシカマルがサクラちゃんより年下だったり、キバがと年上だったり…という、ね。
本当にざっくりしたテーマで書き始めたので…ごめんなさい。
気に入っていただけるか非常に心配な代物なんですが、ようやく出来上がったし、思い入れもそれなりにあるものなので載せてしまいました。

こんな私の書く駄文でもお待ちになってくださってる方がいることを、コチラとサイトの拍手を通して感激していたので載せさせていただいた次第でございます。
いつもはこういったことを、駄文の前にコメントしたりしないのですが、今回ばかりはあまりにもいつもと雰囲気が変わった代物ができあがったので、お邪魔とは思いつつも顔を出させていただきました。

では、これらのことを踏まえた上でお楽しみいただければと思います…






「サクラなら、俺が貰ってやるよ」


冗談交じりに告げたけど。


「サクラちゃんなら、オレがもらうってばよ!!」


冗談にかき消されてしまったけど。






「私、次の春に結婚するの!」


夏、めでたく就活に明るい目処をつけることのできたシカマルや俺を祝して、バイトのメンバー達が。

地方に就職したキバが上司から有給をふんだくって帰省してきたこともあったし、ちょっと離れたところで一人暮らしの就職組のサクラも来て、なかなか盛大に面子が揃った。

そのキバがいけなかった。

久しぶりだったからって、サクラに近況なんてもの訊いたから。


水を打ったような静寂とは、まさにこのことだろう。


「……おめでとうとは、言ってくれないの?」


騒がしい居酒屋に、サクラの声がよく通った。

感情豊かで、表情も声も素直なサクラ。


違う。

俺達は、サクラの思っているような気持ちで黙ってるんじゃない。


「相手は?」


この場で、ようやく声を発したのは。

やっぱりキバで。


「皆のよく知ってる人よ」
「は?」

「俺だよ」


そう言って立ち上がったのは、


「シカマル…」


俺の隣に座っていたサクラの腕を取って。


「サクラと結婚するのは、俺。俺の就活が終わって、正式にプロポーズした。入社する前に式は挙げるつもり」


シカマルには、この状況が読めていたんだろう。

キバの方を真っ直ぐ見て、そう言った。




「おめでと、サクラちゃん。よかったね、変な男に騙される前に結婚できて」
「ナルト…」
「だいたいさぁー、皆だってそう思うだろ?なんだかよくわかんねーどっかの誰かにヘラヘラ笑いながら立たれるより、この中からサクラちゃんの旦那が出る方が納得いくんじゃねーの」


唐揚げをつまみ上げながら、一番最もと思われることを言ったんだが。

他のやつらは、まだ声を出せないでいる。


「サクラ、ちょっと席外してくれるか?」
「あ…うん」


シカマルの言葉に、サクラは淋しげな顔を見せたが。

この状況だ、頷く他なかった。

サクラは外を歩いてくると、携帯と下駄箱の鍵を手に取った。


「ならシカマル、サクラ貸してくれ」
「サスケくん?」


じっと、俺を見つめるシカマル。

ココで目を逸らすわけにはいかない。

後ろめたさはあるけど、今言っとかねぇと一生後悔しそうだから。


「わかった、こっちが終わるまでならいい」
「充分だ、サンキュー。サクラ、行くぞ」
「う、うん」


チラリとシカマルを伺うサクラに、シカマルはすぐ終わらせるって少し笑って。




外は少し、けだるいように熱くて。

ああもう夏なのかって、ふと思った。


「就活してたから、季節がもう夏で驚いてるんでしょ」
「まぁ、ちょっとだけな」
「ちょっとだけ?私なんて、春はどこに行っちゃったんだろうって思ったのに!」


社会人になって、すっかり大人の顔をするようになったと思ったのに。

一緒に過ごした日々と変わらない、まだどこかあどけない子供じみた口ぶり。


――変わらないな、お前は。


年上なところが魅力的な時だってあるのに、ずっとその顔ではいてくれない。

抜けてて、素で天然やってて、ユーモラス。

なのに、ぞくりとする表情をすることもある。

でも基本は、その緑がちな瞳をくりくりとさせて明るい笑顔。

そんなどっちつかずなところが目が離せなくて。


もっと見たいから、見せてほしいから。

傍にいたかった、ずっと。


「なぁ、なんで誰かのモノになるんだよ」


本当は、シカマルと付き合いだした時に訊きたかった。


サクラは、ナルトと俺のモノだと思っていた。

三人で笑いあって、時にお互いを出し抜いて一人占めしてみたり。

その日々に、サクラが誰かのモノになるなんてことあるわけないって信じて疑いもしていなかった。


「なぁ、なんでだよ…」
「サスケくん…」
「二十四で結婚って、早すぎるだろ…」


せめて、あと二年。

二十二の俺じゃ、どうあがいたって何もできやしない。

俺の方が幸せにしてやれるだなんて、口が裂けてもえ言えやしねぇ。

二年経ったところで言えるようになるかわかねぇけど、今よりは自信を持って言えるはずだ。


「二十八までは遊んでいたい、だったっけ?」


縛られるなんて真っ平ごめん。

縛らないから、縛るな。


たしかにそう話した、今じゃ懐かしいお前が傍にいたあの頃に。


でも、帰る場所というものがあってほしいと思うのは。

俺だって、世の中の男達となんら変わらない。


変わんないんだよ、サクラ。


そして、それは誰でもいいわけじゃない。

それがサクラであったらと、


「そこまで待ったら、俺を選んでくれるんじゃねぇかなって」
「サスケくん?」


どうしても、ずっと一緒にいたかった。いてほしかった。


「本気で好きだった。でも、サクラにとって俺はそういう対象じゃなかったのは、誰よりも自分でわかってた」


だから、せめて誰のモノにもならないでほしかった。

ナルトと一緒でいいから、俺達以上の存在なんて作らないでほしかった。

一人占めできないのはわかりきってたから、一人占めされないでいてほしかった。


「シカマルがダメとかじゃねぇ…ただ、俺達は」


幸せになってほしくないわけじゃない。


「サクラが…サクラが一番大切になるのは俺達だって、そう思ってたからだ。だから、おめでとうと言えなかったんだ、すぐには」


幸せそうに笑っていてくれるのなら、それでいいとさえとも想う。



「私…私だって、皆の他はなにもいらないって、思ってた」


きゅっと、俺のポロシャツの裾を握ったサクラ。


「でも、皆が彼女を作ったりして、それなのにずっと傍にいて、気兼ねなく笑っていられるほど無神経にはなれなかった。皆、格好良くて、仕事できて、いい人達で、逆ハーレム!なんてエンジョイできるほど開き直れもしなかった」


驚くほどサクラの声は小さいのに。

車の騒音にも、晴れやかに夏を楽しむ人間の喧騒にも消されることなく、俺の耳に届く。


「別に、皆の一番でいたいわけじゃない。でも、私には皆が一番だったから」


でも、私だけが女だったから。


「少し居づらくて。男だったらよかったのにって、何度も思った。男だったら、そんなこと気にしなくてよかったもの」
「サクラ」
「サスケくんは、私を試すようなことばかりだった。褒めてくれも、なにかを勧めてくれても。誰にでも言えそうな言葉ばっかりだったから、自惚れられなかった」


試してたわけじゃねぇよ、サクラ。

怖かったんだ、情けないほど惚れてたから。


「期待してもしょうがないから、よそ見してみたけど。私の傍にいるサスケくんやナルトを見て、引いてく人達ばっかりだった…」

「シカマルは、違ったのか」

「シカマルは、唯一、サスケくん達に怯まずに向き合ってくれたの。シカマルだけが、二人に負けたくないって言ってくれたの」


ポロシャツを握ったままだったサクラの手を、器用に手繰り寄せて。


「今だけでいい、二年前…いや、三年前に戻ってくれ」


二年。

それが二人の付き合った時間。

その前に…春はどこに行ったのかと驚いてたその日に、今だけでもいい。


戻ってくれないか。


もう、戻れないとわかっているから。だからこそ。






(追憶)

必然じゃなくて奇跡じゃなくまして運命でもなくW

「サクラが好きそうだなと思ったんだけど」

「そう、ですけど」


長くはなかったけど、短くもなかった、共に過ごした日々。

私のことをよくわかってくれたことに、今さら泣きそうで。


でも、それより気にかかるのは。


「隊長、この花の花言葉を知ってたりします?」


声が震えるのは、感動しているからだと思ってほしい。


「ん?あー、実のところ僕は、この花の名前すら知らないんだよね」


最初に言っただろう、君が好きそうだなって思ったって。




ああ、やっぱりね…




「………じゃあ、私はコレ受け取れませんね」
「サクラ?」

「あなたに愛されて幸せ」

「え?」
「アザレアの花言葉です。彼女さんに渡すべきお花なので、私は隊長の気持ちだけ受け取っておきます。こうやって私の誕生日を忘れずに祝ってくれた、その気持ちだけ」


ポロリと堪え切れなかった涙が、ついに零れた。


知らないって残酷。

花言葉を知らない隊長も、私の想いを知らない隊長も。


これが、二度目の誕生日プレゼントだってことも。


チリンと、一度目の誕生日プレゼントが。

私達の間で、小さく、大きく揺れた。


「サクラ、それ…」


万事休す。もう逃げ場なんてない。

完全敗北ね。




「忘れられなくてごめんなさい。いつまでも未練がましくてごめんなさい」




会えない日々は、やっぱり私の味方だった。

忘れさせてはくれなかったけど、こうやって思いしって傷つくことだってなかった。

ただ想っていれば、それだけでそれなりに満たされていた。


想いに応えてほしかったのは、とっくの昔のこと。

隣を歩きたいと再び願うほど、熱くはなれなかった。


片想いというには頼りなくて、愛をただの好意だと片づけるには深すぎた。


ただ、密やかに想わせてほしかった。




「ただ好きだった。それだけです」


もう傷つくのも嫌だった。

心を抉られるように痛むのはもう沢山。

私はそんなに強くなんかないの。

死んじゃいそうなくらいだったんだから。


「サスケは?」
「サスケくん…?」
「ナルトは?サイは?」
「ヤマト隊長?」


懐かしい、匂いと腕と。


「君にはもう、いるんだとばかり」


抱きしめられていると、そう実感した時にはもう。

とっくに涙で、視界がぐしゃぐしゃだった。


「たしかに僕は、すぐに他の人と付き合った。でも、やっぱりダメだった。また一人になっても、思い出すのは彼女のことじゃなかった、君の方だった。君にはもう他の人がいると言い聞かせても…」
「他の人って?」
「サスケが、今君と付き合ってるって…それにちょっと前までは、ナルトやサイとの噂もあったんだよ」


噂?

そんな事実なんてないのに、どこからそんなものが?


「私はあれから、誰とも付き合ってません。付き合えるわけない。だって、最初なんて指輪も外せなかった」
「じゃあ、あの日見た指輪って…」


別れてから、たった一度だけ会いに行った。


「僕はてっきり、君が先に僕を忘れて…」
「ヤマト隊長、そんなふうに思ってたんですか?」
「だって、チラリとしか見えなかったし。まさか、別れた僕とのペアリングをなんて…」


そう言うとベストのポケットを、ヤマト隊長はガザゴソと。


「僕はそれを見て、捨ててしまおうと思った。でも、出来なかった」


コロンと、大きな手に転がってるのは。

黒い模様が入った、私の指輪の片割れ。


「手放すことも出来なくて、いつも持ち歩いてた。情けないとは思いつつ、忘れられなかったのは僕の方だ」


さっきから握りしめたままだった、左手のカードケースから。

私も、指輪をコロリとヤマト隊長の掌に。


あの日は、それぞれ自分ではめてしまったけど。


「今度は、ヤマト隊長が私にはめてください」


もう二度と外せないように。






(もっと素晴らしい何かであると、私は考える)
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