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キスの嵐が君を捕らえる


それはささやかなこと。








キスの嵐が君を捕らえる







「うっ!」

がばっ、とのし掛かればリーマスは詰まった声を挙げた。そんな彼をほっぽって襟足にくちづける。華奢な彼の首筋が好きだ。特に、襟足、鎖骨、肩の骨なんかも堪らない。柔らかな鳶色の毛が邪魔をするからそれを食む。

「……君は犬猫かい、シリウス」

俺の下で唸っていたリーマスが絞り出すように言った。いつもは傷を少しでも見えないようにとかっちり結ばれている筈の首もとのタイが床にに落ちている。はずしていたのだろう、珍しく彼の首筋が大きく露になる。赤くてひきつった彼の傷痕も悪くない。元来彼は横着ものなのだろう。ベッドで菓子を食う、洗濯物はほおったまま、靴は揃えない。君が神経質なだけだと一度ならず言われたことがある。

「あえて言おう、犬だと」

「そうだね、聞くまでもなかったよ」

「ちなみにお前もだぜ、ムーニー」

含んで言えば彼の肩が大きく上下した。さしずめ、ヤレヤレとでも言いたいのだろう。そんな彼の、滑り込みやすそうなシャツの合わせに手を突っ込めば、今度はさっきとはうってかわって俊敏な動きで俺の腕を止める。

「何をするんだよ、パッドフット」

「いや、触りやすそうだから」

「時々君がわからないよ」

ふるふると頭を振れば、彼のその髪が俺の髪を揺らす。そのまま絡まればいい、と以前に絡まる魔法を掛けたら大惨事になったことを思いだし杖から手を離す。少しのびるたびに乱暴に不揃いに自分で散髪するお前から、そのお役目をもぎ取ったのはいつのことだったか。やけに綺麗に切り揃える俺をリーマスはいつも面倒そうに扱うけれど。

「シーリーウースー、どいてくれ、重いよ」

「重い筈が有るか、あんなに軽々投げ飛ばすじゃないか」

リーマスの顔がムッとした。彼は、仲が良くなるまでは表情がないと思っていたけれど、実はとても多彩だ。昔は何をされてもにこにこしていた癖に。尖らせた唇に噛み付こうとすればバランスが崩れリーマスもろとも床へと倒れ込む。

ばさばさ、ぼたぼたと、リーマスが押し潰していたらしい本とチョコレートが床に散らばる。リーマスの顔はさらにさらに不服そうだ。

「シリウス!何がしたいのさ!」

さ、の字のまま固まった唇へ今度こそダイブ。うぐ、と息を詰まらせた彼を存分に味わう。リーマスは不意にキスをすれば大概チョコレートの味がする。今日もそうだった。チョコレートは嫌いじゃないが、直ぐに飽きる。リーマスを経由すればそんなこともないのに。

俺の執拗なくちづけは彼を苦しめるらしい。いやいやと身を捩って逃げようとするのだ。それは余計に俺を興奮させるだけなのだけれど。リーマスは、性的なことをひどくいやがる。身も心も獣になってしまうと怯えているのだ。馬鹿だな、そう言うといつも彼は不満そうに、切なそうに眉を歪める。それがまた好きで、わざと言って居るのだけれど。

「…もう…しり…やめ」

あぐあぐと息を詰まらせながら俺から逃げる。逃がさない。身体に馬乗りになって顎を固定して喉の奥まで塞ぐようなキスはたまらない。呼吸の決定権まで持っているようで支配欲が駆り立てられる。

ドンドン!と胸を叩くのは拒絶ではなく酸素のためだろう。仕方なく唇を剥がせば大袈裟なくらいはぁはぁと彼は下手くそに呼吸をした。乱れた首もとがさらに乱れている。ぺろり、と舌なめずりするのも彼には見えていないだろう。

「あに、アニメーガスになったからって本当に獣になったのかい?こんな、」

はぁ、と肩を揺らしながら俺のキスで濡れた口許をぬぐう。ああ、たまんねぇ。口許をぬぐう手にすらキスを落とす。リーマスは困ったように、やめてってば、と弱々しく言った。

「僕は…君みたいに誰彼キスできるような奴じゃないんだ」

諦めたように脱力して、手のひらで目元を隠しながらリーマスは力なく言った。その姿はひどく扇情的で、キスだけじゃたりないと首筋に手を伸ばす。びく、と小さく揺れる肩がいとおしい。ああ、もう、多分どんな格好でもいとおしいのだろう。

「人をキス魔みたいに言うなよ」

「キス魔じゃないか。酔ってもいないのに。君の感性を疑うよ」

「酷い言い様だな」

「こうでも言わずどう言えばいいんだい?ほら、離れてよ」

やだ、と言ってその首筋、鎖骨のラインをなぜる。キスで火照っていたはずの彼の体温が少し落ち着いてきたのを惜しく思う。白いはだが紅く染まる姿はとても綺麗なのだ。

「シリウス、離れてよ、」

「どうすれば離れなくて済むんだ?」

「はぁ?君、本当に、どうしたの?ここ一月だよね」

「じゃあつまりそう言うことなんだな。この一月なんだよ」

もう言ってる意味がわからないよ、とリーマスは力なく呟く。

「なぁ、どうすればいい」

やっとアニメーガスになって、彼と過ごした夜。興奮して仕方がなかった。彼がひた隠しにして来た裏側を見た気がして、永らく得られなかった彼の心が近づいた気がして、人間に戻ってもいままでの距離がわからなくなっていた。

「……君が――君が、私以外にそう振る舞わないなら…」

「そう振る舞う?」

「……なんでもない、忘れて」

「キス?ハグ?どれだ?どこまで」

「なんでもないから!」

「なんでもなくないだろ、こっちをみろよ」

両手のひらでとらえた彼の頬はほんのり赤い。アニメーガスになると告げた時、彼は嫌だと泣きわめいた。君達に危害を加えたくないと嘆願した。アニメーガスに近づいた時、彼は申し訳ないけどでも凄く嬉しいと泣いた。普段は淡白なくせに、いがいと泣き虫な目は薄い涙の膜をやわやわと張っている。

「…好きだな、リーマスのこと」

「……………………な、にそれ」

「キスしたいハグしたい――くっちまいたい。お前も俺のことそうだろ?」

「食べる、の意味が違うよ」

「好きだ」

「もうやめてってば、シリウス、起きてよ」

「起きてる、好きだ。そっか、そんなことだったんだな」

ちゅむ、と唇を寄せればリーマスは唇を歪めてそれから逃げようとする。なんだそれすっげーかわいい。くふ、と変な笑いを漏らせば彼は怨めしげに俺を睨みあげた。

「好きだよ、リーマス」

「今更そんなの聞こえないよ!」

彼は不服そうな顔で俺から逃げようと身をよじるが、でも、さっきよりもずっとその力は弱い。つり上がりきらない眦に落としたキスは、恥ずかしいほどに幼い音がした。

俺がお前を好きなんて、当たり前で、ささやかなことなのだ。










END
20131120
ちゅっちゅ犬科ハスハス
(//∀//)

C-logA学生



にゃーん

すりすりと足許にすり寄ってきたのは黒猫だった。ホグワーツにも野良猫なんて居るのかと驚いたけれど、もしかしたら誰かの飼い猫かもしれない。毛艶も良いし、お腹がすいているようでもないし。

にゃあ

猫は再び鳴き声をあげ、膝の上に乗り上げてきた。構え、と言うことだろうか。仕方がなく読んでいた本を閉じる。穏やかな風が頬を撫でる。心地よさに眼を瞑れば、下顎を舐められた。

「人懐こい猫だなぁ」

ぺろ、と今度は唇を舐められた。黒猫は得意気だ。可愛らしさに頬擦りをする。するとその猫は閉じていた本を後ろ足で蹴り、僕の手から無くそうとした。

「なんだい、まるで………」

言い掛けて、止まる。まるで、誰かさんみたいだねぇ。猫はしまった!と言う猫らしからぬ顔をした。と言うか猫じゃない。どっちかと言うと犬だ。

「……随分手の込んだことをするねぇ」

せっかくなのでにくきゅうをふにふにしながら猫に言えば、猫は逃げ出そうとするように身を引いた。そうまでして邪魔をしたいのか。先程邪魔をしてきた彼は何処かに行ったと思ったのに。

「お前も悪い!」

「わぁあ!」

ぼふん!と急にひとがたに戻った彼、シリウスに乗り上げられる形になった。それはそうだ、さっきまで僕の膝の上には猫が居たのだから。シリウスよりも軽い体、弱い力では押し退けることも出来ない。

「重いよ」

「浮気だな」

ぺろり、と先程の猫みたいにシリウスが僕の下顎を舐めた。

「お前は誰でもキスするのか?」

そう言って今度は唇を舐める。誰でも、だって?猫だったじゃないか!結果としてひとだったけれど、君だったじゃないか。不満に思い睨み付けてもシリウスはしたり顔で僕を見下ろしている。木漏れ日の不安定な光が彼を美しく演出しているのだから面白くない。

「するよ」

「嘘つけ」

「わかってるなら聞くなよ」

「誰とならするんだ?」

「こんなことして楽しいかい?」

楽しいとも、ムーニー。そう言ってシリウスは僕の額に、目頭に、まぶたに、眉間に、目尻にと唇を落とす。全くシリウスの構って病には恐れ入る。自分が本を読んでいるときは放っておけと言う癖に。

「………きみと、だけだよ」

それならこちらもこの下らない遊びに付き合ってあげよう。

「シリウス、君だけだ」

シリウスが固まった。

「唇以外だって、そうだろう?」

悩ましそうな顔を精一杯して(きっとそんな顔できていない)シリウスを見上げる。…………あれ?シリウスの耳が、みるみるうちに赤く染まる。そして彼はパクパクと鯉のように口を開閉して、どさり、と僕の胸にその頭をおとした。

「……からかうなよ」

「どうして君が照れるんだ。僕まで恥ずかしくなってきたよ」

「だってお前めったにそんなこといわないだろ、卑怯だ」

胸元でもごもごとシリウスが文句をいっている。卑怯?力で押し付けたままのこの状態も、猫に化けて僕を邪魔した君の所業もね。でも、風に乗ってちらちらと見えるシリウスの耳が柄にもなく真っ赤だったから、許してあげることにしよう。

「ねぇ、シリウス」

「なんだよ」

「これじゃあ君の顔が見えないよ」

そう言うとがばりと顔をあげて、ふ、と彼は意地悪そうに笑った。でもその笑い方は本当に彼に似合っていて、うっかりみとれてしまう。シリウスは端正な唇に弧を描いたまま、その額を僕の額へとちいさく、ぶつけた。

「ほんとお前って……」

「なんだよ」

「………かわいいやつ」

今度は耳を真っ赤にするのは僕の番だった。けれど、きっと彼には見えていない。だって僕も彼も、睫毛が触れるほど近くにいたのだから。







end*
201310移動

その呪文が言えない

魔法使いなのに、叶わない魔法。








その呪文が言えない









肉欲は、浅ましい。

大きな溜め息を吐こうとしてから、息を潜める。まだ皆は寝ているだろう。自分の浅ましさに目眩がしそうになるのを耐え、そっとベッドを抜け出しシャワールームに飛び込んだ。

シリウスへの想いを自覚してからだった。夜な夜な彼の夢を見る。それは、とても辛いことだった。結果、よく眠れないし、疲れは溜まるし、シリウスへの罪悪感で彼の顔を見ることができないし、全く以ていいことがない。

「朝風呂か?」

考え事をしてたら頭から水を被ってしまっていて結局全身を洗うはめになっただけだったのだけれど、シャワーを出た所にシリウスが立っていて酷く驚く。水を被っていたのがバレると彼は煩いから、曖昧に笑って逃げようとしたら捕獲されてしまった。

「うわっお前冷たい!」

「熱かったんだ!」

「そんな訳あるか!」

むにー、と頬を両手で挟まれる。シリウスの掌から熱が滲んで温かい。

「…唇…真っ青…」

そう言うと彼は予想外の――ある意味想定内の――行動をした。僕の冷えた唇を温めるように彼のそれが触れたのだ。――半分は、シリウスのせいだと思う。僕は人琅で、その負い目から他人との接触が酷く億劫だ。シリウスやジェームズはわざと僕にさわる、抱きつく、キスをする。手の甲、頬、髪の毛、彼等の唇が僕に触れる度最初の頃は罪悪感でつぶれてしまいそうだった。

ジェームズは、さすがに唇にはほとんどキスをしてこない。以前はあったけれど、シリウスが俺はお前と間接キスがしたいんじゃない!と言って――ジェームズは大爆笑だったが――から、その機会は格段に減った。

啄むように数度キスをされて、さすがに恥ずかしくなって首を振る。今度はまだ濡れる髪へと彼のキスが落ちる。目の前は、彼の喉仏だ。誰より透明な彼の澄んだ肌は美しい。いつもやられてる仕返しだ、とばかりに、彼を引き寄せて、その喉元にキスをした。

「…っ、り…ます……」

瞬間、シリウスの身体がカチンと固まった。いけないことをしてしまったと察する。出過ぎた真似だ。空気を変えた彼に戸惑い声を発せずに居る僕めがけて、シリウスが―――

「違う違うシリウス違う!」

ぐいー、と彼を止めたのはジェームズだった。

「スイッチ入ったのお前だけだから。おはようリーマス」

チュッ、と頬にキスをされ、おはよう、と返す。策士な彼は何時から起きていたのだろうか。とてもじゃないが恥ずかしくて聞けそうにない。

シリウスは大きく溜め息を吐いて僕をはなした。ジェームズはからかうように頬にキスをして、ふたりはじゃれる様に取っ組み合う。そんな二人を見ながら、どきどきと高鳴る胸を押し潰す。浅ましく、愚かで、高望みだ。夢に出るシリウスと重ねないように頭を振る。お前の幻想を彼に押し付けるなんて気色悪い。

自嘲の言葉を溢れさせて、愚かな勘違いを呑み込むのだ。











シリウスがまた告白されたらしい。今年に入って、もう両手じゃ足りない。去年までは稀に付き合うこともあったのに、今年は全てを断っているようだ。本命でも居るのかなぁ、とひとりごちた僕の声を拾ったジェームズはにんまりしていたから、きっとそう言うことなのだろう。

ジェームズだけが知っているのだ。そう思うと、もやもやとしたものが胸を圧迫した。嫉妬だなんて、僕が抱いていい感情じゃない。秘密を共有しようといったって、僕だってこの感情を隠しているのだ、お互い様だ。

よいしょ、と背伸びをして上段にある本に手を伸ばす。しかし、目的の本以外も飛び出てきた。懐の杖を取り出すのも間に合わない。衝撃に備えて目をつむるも、その瞬間は一向にやってこなかった。

「……お前、本当にどんくせぇな」

代わりに降ってきたのは聞き覚えのある声。仰ぎ見れば、本を押さえたシリウスが居た。

「シリウス、ありがとう」

「杖を使えば直ぐだろ」

「背伸びしたい年頃なんだ」

えへ、と笑えばシリウスは肩を竦めて、変なやつ、と笑った。同じ年なのに、シリウスの手足はするりと美しい。黒い髪は他の色を許さない。羨ましいようで、でも自分がこの美しさを手にしても使いこなせないなぁ、とも思う。

「…どうした?」

「シリウスは綺麗だなぁって」

むちゅ。

本棚の影にかくれてキスされた。今、このタイミングで!?固まっていると、悪い、と謝られた。よくわからない。シリウスはばつが悪そうにくしゃくしゃと僕の髪を混ぜた。

「でも、リーマスも悪いんだからな」

「う、うん、ごめん」

「謝るなって!」

悪いといったり謝るなと言ったりもう本当にわからない。俺、戻るわ、と言ってシリウスは消えていく。一体何しに来たんだろう。キスだけされて、どきどきだけして。シリウスに掻き乱されて、心が休まらない。

ただ、意図はわからなくても、触れたこの唇の暖かさだけは、僕の宝物にしようと思う。











「勘違いしてると思うよ」

ジェームズの声だった。体調が悪くて部屋で眠っていた。いつのまにか夜になっていた様だ。もう一人の気配、間違いなくシリウスだろう。勘違い?耳をそばたてる。

「勘違い?」

「リーマス」

「何を勘違いするんだ」

「君の好意を、だよ」

ジェームズの言わんとしていることをシリウスは察したようだ。勘違い?僕が?どきどきと胸がなる。シリウスが、僕のことを大事に思ってくれているのはわかってるけれど、それ以上だとは思わない。いや、思えない。だって、僕は、人狼で。そんな自嘲をしながらも、シリウスの言葉を待つ。期待していたわけではないけれど、シリウスはなんて答えるのか気になった。

「……いいよ、勘違いさせとけば」

「お前はそれでいいわけ?」

「仕方ねぇだろ」

つまり、シリウスが僕に優しいのは、そんなつもりもなにもない、そしてこいつ勘違いしてるな、と思って接していたと言うこと?顔から火が出そうだった。

息を殺す。二人が出ていくのを祈った。今見られたら、こんな顔を見られたら、僕は惨めで二人の友達では居られないだろう。少しばかり、忘れすぎていたのかもしれない。自分の立ち位置を。なんとか二人が部屋を出るまで、嗚咽をこらえることが出来た。










「リーマス、どこに居たんだよ」

夕食も終わる時分、飛び込みで食事に来た。見つからないように隅っこで食べようと思ったのに、シリウスは目敏く見つけて近づいてきた。とっくに食べ終わって居ただろうに、僕を待っていたのかと思うと胸がいたい。ジェームズの顔をうかがってしまう。やれやれ、そんな感じの顔に背筋が凍りそうだった。

「…ちょっと、体調が、悪くて」

「なんで早く言わなかったんだ?大丈夫か?」

心配そうに覗き込んで来る視線を避ける。それを不審に思ったのか、シリウスの手のひらが僕のほほに触れた。――――これで、勘違いするなって?こんな僕にためらいなく触れてくる手を、勘違いせずにいられようか!その手を弾けば、シリウスが息を詰めたのがわかった。

「ごめ、ん、やっぱりご飯いいや」

「お前、どうした?」

「気分が悪いんだ、構わないでくれ」

冷たい言葉になってしまった自覚はある。でも、このまま、この穏やかな関係が続いたら、どうにもならなくなってしまう。シリウスが僕にだけ甘いと思っていたのは、人間関係を知らないからだ。友達なんて居なかったから、距離感がつかめなかっただけ。

「リーマス?」

そんな優しい声で呼ばないでくれ。

押し退けて逃げ出したのに、シリウスは簡単について来る。

「待てよ、リーマス、どうした?お前変だぞ、」

「追い掛けてこないで、シリウス、僕は今気が立ってるから、」

「なんでだよ!」

簡単に捕まった。ああ、こうやってシリウスはすべてを手に入れて生きてきたのだ。僕とは違う。蓋をしなければならない感情が溢れる。嫉妬なんて、醜い。肉欲は、浅ましい。君へと向ける感情は汚いものばかりだ。魔法使いなのに、魔法じゃどうにもならないことが多すぎる。

「勘違いさせないでくれ!」

殆ど抱きすくめられるような格好で僕は叫んだ。これを言ったことにより僕らの関係が歪んでしまうかもしれないけれど、日々胸を痛めていきるのには疲れた。

「勘違い?」

「君が、優しいのが、辛いんだ。わからない、距離が掴めないんだ」

「何が言いたい?」

「君を、君が、少しでも、」

唇が震えて言葉にならない。少しでも僕を好きかもしれないなんて、言えない。友達でいられることを感謝しなければいけない。それなのに、僕はそれを壊そうとしている。

「勘違い、勘違い、つい最近もその話……あっお前、まさかあのとき部屋に居たのか!?盗み聞きしたのか!?」

「君たちが勝手に話したんじゃないか!」

「だからそんなによそよそしいのか、それが答えなんだな」

シリウスは目に見えて肩を落とした。どうしてここでシリウスが肩を落とすのかわからない。見上げれば、やはり綺麗な顔。

「俺が―――俺が、お前を好きだってわかって、よそよそしくするんだな」

「…………………ん?」

話が違う?

「男同士だし、そうだよな。悪かった。このまま友達で…」

「シリウス?あれ?友達以外の何になりたかったの??」

「…だから…俺は…お前が好きなんだよ」

「僕だって好きだよ!」

「ほら、やっぱり勘違いしてる。俺は―――」

唇が落ちてくる。

ちゅ、と合わさったキスは、いつもと同じようで、いつもより遠慮がちだ。

「………こう言う意味で、好きだったよ」

勘違い?勘違いを勘違いしていたのかもしれない。魔法使いでも、出来ない魔法がある。言えない呪文がある。でも、もしかしたらこれは―――

「僕も、シリウスが、すき」

「だから、」

「こう言う意味で、」

少しだけ背伸びをして、キスをする。触れたシリウスの唇が震えていたのははじめてだった。離そうとしたら後頭部を捕まれ、急に野獣へと姿を変えた。息も吐かせぬほどのくちづけに足が震える。それごとシリウスは僕を抱き締めた。

「………ずっと、ずっと、言いたかった」

すきだ、すきだすきだ、と、まるでその言葉しかしらないみたいにシリウスは僕を抱き締めた。

魔法使いだから言えない呪文。魔法使いじゃなくても言える呪文。勘違いなんて、もしかしたら僕らはすこしばかり遠回りしたのかもしれない。

今までより近くなった距離感になにかを察したジェームズは、やはりヤレヤレと言う顔で、勘違いじゃなかったのかな?といった。シリウスはそれに牙を剥いて、お前のせいだとつかみかかる。

違うよ、ジェームズのお陰だよ!そう言ってシリウスを止めた僕にジェームズは大笑いして、どんな呪文よりリーマスの待てがきくんだね!と揶揄した。少し困ったのは、シリウスがそれをまんざらでもないように胸を張ったこと位だろう。









END
20131009

手探りじゃ見えない



突然強い力で押し倒され、シリウスの両手が僕の頬を包む。至近距離で合わせられた、彼の黒い黒い宝石に見いられ瞬きも出来ない。







手探りじゃ見えない







「よっ、色男、朝帰りかい」

聞きなれたジェームズのからかうような声に釣られて顔を上げれば、ひらひらと手を振るジェームズと、彼の言葉に赤面したピーターと、そして、とても不機嫌そうなシリウスが僕を待ち受けていた。

「昨日は三日月だぜ、色男」

シリウスが刺々しい声でそう言った。そんなことを言われても困る僕は曖昧に笑ってテーブルに着く。色とりどりのパンやスープに手を伸ばそうとして、見えた手首に残る跡に気付き、手を伸ばすことを躊躇う。しかし目敏いシリウスが僕の手を掴みシャツを引っ張りあげる。抵抗する暇など全くないのだから彼の早業には畏れ入る。

「何処で誰とどんなプレイを楽しんだんだ、ムーニー?」

「あのねぇ…。お腹すいてるんだ、後にしてよ」

「おや、朝殆ど食べない君がお腹すいてるのかい?」

さぁさ、とからかうように食事の載った容器を僕に寄せながら、全く笑っていない目で、ジェームズが笑った。その表情に勝てない僕は逃げるように目をそらし、席を立とうとする。しかし腕はガッチリとシリウスに捕まれていて動くことも叶わない。

「どこにいく?」

「食事出来ないなら授業まで少し休む。疲れてるんだ」

「どうして?昨日はどこにいた」

「君に言う必要があるかな」

シリウスのつかむ力が強くなる。僕は思わず漏れた溜め息を繕うこともせず、頼むよ、と懇願した。

「何処で何をしてるんだ」

「尾行は得意じゃないか」

「質問を変えよう。…あれは、何をしていたんだ」

シリウスとジェームズに隠し通せるなんて思ってはいなかったけれど、それにしてもあっという間に見破られたものだ、と自分の隠匿能力の低さに悲観した。

「…何って……見ての通りさ…勘弁してくれよ、少し休みたいんだ…」

振りほどく力なんてない。僕の嘆願も叶わず、なら俺も行く、とシリウスが立ち上がった。目眩がする。馴れ合うことに慣れきらない僕にはこの近すぎる距離をつかむのに時間がかかる。

シリウスは逃がしはしないとでも言うようにがっちりと僕の腕を捕らえ歩みを進める。まるで囚人みたいだ。笑いを漏らせばシリウスは不快そうに目を諌めた。放っておいてよ。そう言ったのはいつだったか。君達しか居ない。そう泣き叫んだのはいつだったか。眠たい頭と栄養の足りない身体ではどうでもいいことのように感じられた。

「……お前が」

ぽつりとシリウスが呟く。

「お前が、本当に、迷惑だと思っているなら―――」

「その聞き方は卑怯だ」

「……リーマス」

「卑怯だ、シリウス」

じわ、と涙が視界を歪める。

どうでもいいこと?そんなわけない。

「君達が……君達が僕なんかのためにアニメーガスになると言うのに、僕は何もせず指をくわえて見ていろというの?」

「リーマス」

「君達になにかあったら、それこそ僕はどうしたらいい?」

「だからと言ってお前が自分を傷付ける必要は無い!」

そう言って僕の手首をつかむ。昨日の傷痕に眉を潜めればシリウスはその形の良い眉を寄せ、僕の傷だらけの手首に唇を落とした。

彼らがアニメーガスになると言うから。僕に出来ることは無いかと考えたら、思い浮かんだのは自らの手足をどうにか捉えて彼らに攻撃をしない方法だった。

しかし、意識を失う寸前にかける魔法はちぐはぐで、手足だけでなく首を締め付けていたり(翌日痣になるのだ)力加減がうまくいかず肌に食い込んでいたり、はたまた検討違いな魔法をかけていたりした。なんとか死なずにすんでいる、そう言われても仕方がない。

「……俺達は、狼男と戦う訳じゃない。一緒に走り回ったり、冒険したいんだ」

「意識のない僕が冒険に飽きて君達に危害を加えないとも限らないだろう」

「俺達がお前ひとりに敵わないと思うか」

「思わない!思わないさ!僕には!でも、満月の夜は僕は僕じゃなくなるんだ!」

「リーマス、」

「血に飢え肉に餓えた知性の欠片もない―――」

「リーマス!」

締め付ける痛みに息が出来ない。シリウスは強い力で僕を抱き締めた。それを振りほどく選択肢はない。息がつまるほどの抱擁は僕を恍惚とさせた。麻痺していく感覚が頭から感覚を鈍らせていく。

「………シリウス、ありがとう、少し錯乱してた」

シリウスの力は弱まらない。

「シリウス、苦しいよ、もうわかったから、」

依然体は離れない。

「……シリウ……っ、」

突然強い力で押し倒され、シリウスの両手が僕の頬を包む。至近距離で合わせられた、彼の黒い黒い宝石に見いられ瞬きも出来ない。

「キスしていいか?」

「……なっなんでだ!いやだ!」


シリウスがいきなり突拍子もないことを言うからやっと現実に帰ってきた。先程まで言うことを聞かなかった手足が息を吹き返したかのようにばたばたとばたつく。シリウスはくつくつと喉で笑い、嘘だよ、と息のかかる距離でささやいた。その吐息に背筋が鳥肌を立てた。

「リーマス、お前がお前を傷付けて拘束する必要はない。大丈夫だ、俺達は」

「シリウス、こ、この距離で言われると、口説かれてる気分だよ…わかったから離れて……」

「やっと気付いたな?口説いてるんだよ」

ちゅっ、と柔らかく触れた唇に反応するより早くシリウスの体は僕から離れ、腹減ったな〜といいながら戸口へ向かっていた。呆然と、あの漆黒の瞳の方が、僕の至らない魔法なんかよりよっぽど拘束力があると未だにしびれの残る掌を握りながら考える。

きっと、この心を掌握されるのも、近い近い未来になるだろう。










END
20130917

つよいしりうすはかっこういいとおもいます(さくぶん)

無題

※三巻直後






「…………っ、は、し、シリウス!?シリウス!」

「シリウスは無事ハリー達が助けた、心配することはない」

「……………ピーターは…」

「貴様が脱狼薬も飲まずのこのこと満月を歩く酔狂だと言うことが証明されたな。ペティグリューは逃走した。嬉しいことだ、まだ世界の敵はシリウス・ブラックだ」

「これこれセブルス、そう言うことを言うではない」

フンッ、と鼻をならしセブルスはカツカツと足をならして部屋を出ていった。ハリー達は無事、シリウスも無事、そして――ピーターも無事。感動の再開とは程遠い出来事は脳の中枢を麻痺させたままだ。十数年も私達を騙してきたピーター。そして彼と私達を引き合わせたのが私達が作った忍びの地図であることが滑稽でならない。

「…リーマス、君がちいとばかりハリーを追いかけ回したからセブルスはご立腹なのじゃ」

「校長!私は彼らに危害を――」

「勇敢な生徒を持ったことを誇りに思うがよいぞ、リーマス」

ダンブルドアはウインクを投げて寄越した。ハリー達が無事なら他になにも求めることはない。しかし、しかし。私は、シリウスの冤罪を晴らす機会を奪ってしまったのだ。これでピーターが例のあの人に殺されでもしたら、シリウスはずっと殺人鬼の汚名を着せられたままになる。

ああ、私は何時だって――――君の邪魔をしてばかりだ。












「ルーピン先生!」

「私は出ていかねばならない。君とこのホグワーツで過ごせて幸せだった。そしてハリー……シリウスを助けてくれて…ありがとう」

ハリーの声に後ろ髪を引かれながら、私はホグワーツを後にした。来た時とは比べ物にならないほどの喜びと、罪悪を抱えて。











「随分質素な生活をしているようだね」

洞穴に向けて声をかければ、ヒッポグリフに寄り添っていた黒く大きな犬がうっそりと顔をあげた。私の手にチキンが有るのに気付くと、くったりしていた耳がピンとのびる。そんなところまで昔と変わらなくて、涙が溢れそうになる。

ガツガツと犬のまま食事をする彼を眺める。ピーターさえ捕まえていれば、彼の住居はいまこの洞穴じゃなかった筈だ。悔しさと申し訳なさに自然と涙が出ていたのか、シリウスはチキン臭い舌で私のほほをなめあげた。

「人に戻ってくれよ」

クゥーン、シリウスは切なそうに鳴く。

「私を罵ってくれ、お前のせいだとなじってくれ、シリウス、私は何時だって君の邪魔をしてばかりだ」

キューン、と耳を下げるシリウスに胸がつまる。苦しい。泣き止まない私をシリウスはオタオタと回りを歩いて仕方ないとばかりにアニメーガスを解いた。

「……お前が好きだった俺の筋肉質な胸板も、腹筋も、イケメンな顔も無いんだぜ、今じゃ」

疲れた、ひなびた顔をしていた。しかしそれは私がみたシリウスのどんな顔よりやさしそうだった。余計に溢れる涙をシリウスは犬のままかのように舐め、間違えた、と言って笑う。

「シリウス、シリウス、本当にごめん、シリウス、謝っても足りない、シリウス!」

「リーマス、俺は…お前と、ハリーが真実を知ってくれていれば、それだけでいい」

「そんなの、」

「絶望の日々だった。ただひたすら、ハリーとお前の無事を、そしてピーターを憎んで生きてきた。それがどうだ?ハリーにファイアボルトを贈ることができた。リーマスがいまこの腕のなかにいる」

「私は、君を、疑っていた。私だけ殺してくれなかったと恨んでいた。」

「それはお互い様だ。この立場が逆転していてもおかしくなかったんだ。それに――友人に狼男が居たお陰でアニメーガスにもなったんだしな?」

慰めるべきは私なのに。ぼろぼろと泣き続ける私をシリウスは優しく抱き締め、背中を叩いてあやした。

「臭くてごめんな。水浴びはしてるんだぜ」

「次来るときは服を持ってくる。それと―――私の家の合鍵も。いつ来てくれてもいい。生憎私は―無職なものだから」

「…そうか。辞めたのか」

「ワーウルフだとばれてしまってね」

「まさか、」

「そのまさかなのだけど…わぁ、怒るなよ!私がハリーを追いかけ回してセブルスはおこってるんだってダンブルドアが言ってた。案外その通りだと思うよ、私は」

「あいつがそんなお人好しなわけない。お前を貶めたいだけだ」

「それでもいい。ホグワーツにいる限りハリーはダンブルドア校長とセブルス、マグゴガナル女史が居る。私は……チャンスだとも思ってる」

「チャンス?」

「失われた十数年を、君と埋めたいなぁ、って」

あはは、と力無く笑った私をシリウスは強い力で抱き締めた。私よりも細くなった腕のどこにこんな力があるのだろうか。長くなった黒髪は解れ絡まっている。次来るときは、服と、はさみと、やっぱりチキンを持ってこよう。

擦り合わせた頬で、時間が埋まり始めた気がした。

そう、私は何時だって君の邪魔をしてばかりだ。だから、今度は、少しでも側に居て、力になれたらと思う。失われた時間は取り戻せないけれど、でも、これから時間はたくさんあるのだから。




END
20130810
時間無いんだけどね(´;ω;`)
うぉぉぉーん(´;ω;`)
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